12 Aug 2008

英国の教育

むろんそれを期待して現地校を選択したのだが、期待以上だったのが、その指導方針だ。当然学校によって違いはあるだろうが、これから書くことは、おそらく英国に限らず米国など他の国も含め普遍的にあてはまると思う。

  • 自分で考えることを重視

  • 重視されているというより、当然自明あたりまえのことと考えられている、と言った方がいいかもしれない。考えること、書いたり発表したりすることは、低学年のときから繰り返し繰り返しやらされる。

    例えば、Year10 (日本の高校1年生相当) の歴史のエッセイ (小論文) の課題が "How fair was the Treaty of Versailles?" (ベルサイユ条約はどれほど公正だったか?) とか、"Why did the League of Nations fail?" (国際連盟はなぜ失敗したか?) とかである。両方とも、歴史家の間でも諸説あって、したがって正解はない。自分で資料を漁って史実の背景を調べ、その因果関係を考察して自説をたて、根拠を示しつつ説得力を持って説明しなければいけない。当然、採点基準は内容の正誤ではなく、調査・考察・報告の質が問われる。言っていることが間違っていてもいいから (というかそもそも正解がない)、ちゃんと調べてちゃんと考えてちゃんと主張した方が評価が高い。

    こういうエッセイを週にひとつづつくらい書く、というのが授業の中心である。史実の解説もやるが、淡々と丸覚えするというようなことはしない。各時代それぞれの政治・宗教・文化を全部網羅的に取り扱う、というようなこともしない。史実はあくまでその先で「考える」ためのネタにすぎないし、だから、全部網羅的に学ぶ必要もないというわけだ。

    歴史に限らず、知識は調べ方さえ身についていれば、後で調べれば得られる。知識そのものを学ぶのではなく、むしろ、知識をどう調べ、どう取り扱い、どう考えるかということは、訓練しないと身につかないので、そこを徹底的に鍛えてもらった方が、よほど後で役に立つし、やっている方も丸覚えなんかよりはよっぽど面白いと思う。

    余談だが、上の課題はふたつとも、Google で検索すると相当な件数がヒットする。決して特別ではなくありきたりな課題のようだ。もっともこの課題のエッセイの採点とか販売とかする商売があるので、英国人や米国人の生徒にとっても、重いことは重いらしい。

  • 考えたことを主張することを重視

  • 当然考えるだけではなくて、考えたことを外に向かって発信しなければいけない。

    授業では、発言しないと「授業に参加していない」と言われてしまう。発言したい人は挙手をして先生にあてられてからしゃべる、というようなお行儀のよいやり方ではない。意見のある人はどんどん発言する。ブレーンストーミングとか、議長がいない普通の会議と同じ。そう。外国人とやると我々日本人は発言する隙をなかなかつかめないあれである。

    エッセイは方法論からして定式化されていて、例えば introduction, Thesis statement, paragraph 1, ..., conclusion, evaluation という構造は普遍的に決まっている。「起承転結」よりはずっと具体的だし、そこは定式通りでいいから中身に何を書くか考えなさいというわけだ。エッセイを書くだけでなく、プレゼンテーションすることも多い。

  • プロジェクトに取り組む

  • 研究でも調査でも創作でも社会活動でもよいのだが、テーマを決め計画をたて必要なものを手配するところから全部自分で考えてやる「プロジェクト」に、半年から一年かけて取り組むことをよくやる。

    すごい子になると、学校中を巻き込んで身体障碍者支援の一大キャンペーンをやったり、地元の公共交通機関改善策を考えて地元の役所に提案したりする。

    長期に渡る取り組みなので、進捗管理はしっかりやらないといけないし、不測の事態に対して計画の見直しをすることもある。

    ここでも評価は、いかにうまくプロジェクトを運営したか、さらにその結果自分がどれだけ成長したか、というところをいちばん問われる。最終的な作品や結果の善し悪しは一応評価されるがあくまで二の次。仮に結果が失敗だっとしても、ちゃんと原因分析と今後に向けた反省があれば評価が下がることもない。逆に、いくら作品の出来が素晴らしくても一夜漬けでやっつけたのは評価が低い。

こうやって見てみると、ビジネス上で我々日本人が外国人と比べて下手くそなことが多い、論理思考・批判的思考とか、自分の考えを主張して理解・合意を得ることとか、企画と推進・起業と経営とか、そういうことに関して、彼らは子供のころから鍛えられているのだということがわかる。一朝一夕の社員教育や OJT なんかで太刀打ちできないのも頷ける。学校の勉強が社会に出てからいったい何の役にたつの? とはよく聞く疑問だが、どうやら英国人や米国人はそういう疑問の持ちようもないようだ。

こういう教育に、たとえ数年という短期間でも触れられるのは、土台もなしに飛び込んで本人は大変だし短期間に習得しきれるとも思っていないけれども、やっぱり得難い貴重な経験だと思う。

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